びっくりしたはなし

yokkobukko2008-06-11

翻訳の世界に不穏な風が吹いている。野崎歓訳「赤と黒」が誤訳論争、いや紛争、いや騒ぎを呼んでいる。野崎氏といえば、翻訳界のスター、同時に語学教育者だし、学術界に地位のある人でもあるし、そんな人でも誰かに叩かれたりするんだな、と最初はぼんやり受け止めたニュースだけれど、誤訳の告発主である下川茂という人の最終的な要求が、誤りを訂正しろどころでなく、絶版の要求だと知り、血の気が引くというか、ぎょっとした次第。絶版の要求というのは、かなり異色だ。この世からその痕跡さえも消してしまいたいということなのだ。たとえば、作家本人(この場合はスタンダール)とか、家族とか、この物語の直接関係者が、その本でなにか害を被って、絶版を要求するというならありうる話なのだが。だから実のところ、この話のいちばんのびっくりしどころは、そこなんだと思う。
実際、下川氏の告発文というか、抗議文(実際は書評のかたちをとっている)を読んでみた。この人が相当数挙げた誤訳は、どれも(といってもどれも問題箇所のみの抜粋なので、もっと大きく読んでみないことにはわからないが、それでも)リコール、絶版を求めるほど致命的なものではない、と思った。でもこの人はものすごく怒っているから(そう、この人、怒っているのだ!)、怒る理由があるはずなんだ。もしかしたら、問題は、「訳し漏れ」の多さにあるのかもしれない。この人が、これまでの生涯を本気でスタンダールに捧げてきたのだとすれば、その大切な聖域を、余所者に土足で踏み荒らされたような気がしたかもしれない。まあ、これはあくまでも想像であって、実際にはもっとどろどろした俗っぽい事情があるのかもしれない。
それにしても、誤訳をめぐる論争って、どうしてこう感情的な感じになっちゃうんだろう。なんかつらい。

今日はこれから弟の家でベビーシッター。毎週Aちゃん、ちょっとずつ大きくなってる。抱いてると、温もりがこう、しみてきて、ほろっとしてしまう。
  夕飯シリーズ ぶた焼いた