新聞小説

yokkobukko2012-06-24

水村美苗ってやっぱおもしろい。前は「グレートギャツビー」と「嵐が丘」のミックスだったが、今度は「金色夜叉」と「ボヴァリー夫人ミックス。新聞で連載されていたらしいが、ぜんぜん知らんかった。例によって階下のお姑さんに「お忙しいでしょうけど・・・」の枕詞とともに差しだされる。「おもしろくないのよー、というかなんなのーって感じなの・・・本格小説とぜんぜんちがうの、でも感想聞かせてね」
いや、おもしろいすよ、これは。terrestreという形容詞ありますが、非常に世俗的、地に手足のついたという意味あいの、非常に物質的、現世的、つまり天国とか彼岸でない、この世に生きるというような意味あいの。そういう形容詞をまず連想。それをこう展開して、どうしてこう痛快になるのか。山のホテルに象徴されるような、日本の中産階級とか、上流とか、西洋に憧れるあのキッチュさの表現うまい。ああいう名状しがたいものを具現化するのほんとにうまいよ、このひと。あと大学教授なんだけどほんとは知性的でない旦那とか、上流なんだけど非常に俗っぽい姉の嫁ぎ先とか、もう満載、おもしろどころ満載。哲ちゃんという旦那のバックボーンのリアリティ。哲ちゃんの気持ちもわかるもんなー。水村さんのうまいとこだ。女主人公の目があまりに赤裸々に、あるがまますべてをとらえるから、彼女主観でありながら、よくよくアップにしてみると、他者の目に映る世界も見えてくる。さすが漱石フリーク。あわせ鏡みたいに、哲ちゃんの見ている世界が見えてくる。哲ちゃんの目からみた妻と、その家族、その価値観。わたしは育ちが近いせいか、かなりシンパシーをもって、このかわいそうな夫を眺めた、と同時に笑った、かなり笑った。最後の湖のホテルでのどたばたがいかにも小説的でサービスたっぷりで、ちょっと悪乗りの感さえあって(武っていう華と翳ある青年とかね)、いやいや、いやいや、おもしろすぎますよー水村美苗ー。既存の小説をネタというか、建材にして、なんでもリクエストに応えるよーという、カータンでしょ、ピンポンパンのカータンでしょー、あなたは!