聖ニコライはどんなひと

yokkobukko2011-08-26

どういうタイミングか、ライプチヒはいまあちこちで工事している。とりわけ駅前は再開発真っただ中。眼前にひろがるパノラマのあっちこっちで背の高い首長のクレーンが律儀に早朝から動きはじめる。ホテルの部屋は市街に向いた14階なので、昨日のトマスも今日のヨハネも塔がよく見える。直線だとけっこう近い。あのあいだをバッハさんは行ったり来たりしたんだなー。

朝5時半、ホテルロビーにはエスプレッソマシーン、ありがたい、たっぷり二杯いただきました。早起きするとこういう得があるのか、大きいホテルも悪くない。駅までお散歩。明日は完全にみんなと別行動、電車でナウムブルクという町へ行くので、路線と時間の確認。ライプチヒの駅は巨大、地下から三階ショッピングエリアになっていて、ちょっと空港みたい。まだ朝早いのでブティックやレストランは閉まっている。インフォメーションで日に何本か直通があることと時間をおしえてもらう。切符は切符売り場で買う。座席指定はいらないらしい。

ホテルで朝食後は聖ニコライで朝練。5分前行動とかこの国ではあまり意味がないかもしれない。門前で扉が開くのを待つ。今日はこの時間ですでに蒸し暑い。上下黒服は無理。バルコンで歌うならなに着てたってわからないだろう。10時ぴったりに扉開き、それからゆっくりバルコンへ案内される。昨日も来たけれどここの内装はユニーク。

白基調、白い柱の先、本来柱頭があるところがたぶん漆喰で鮮やかな緑の棕櫚の葉にしつらえてある。天井はモザイクというか網目になっていてちょうど植物の細胞のよう、細胞ひとつひとつの核にあたるところに花や植物、アイリスなんかがこて絵で描かれている。不思議とがちゃがちゃしておらず、下品にもなっていないんだけど、この植物世界はなんなのかと思ってしまう。トマスもそうだったけど、天井に太陽ともくもく雲、それから植物というとりあわせは、創世記のイメージかもしれない。

建物はもとはロマネスク、16世紀に後期ゴシックになって、バッハの時代にバロック度があがったらしい。いまみたいになったのはいつ?とにかくユニークなのは左右側廊上、ロマネスクなんかだとクリアストーリーとかいって、飾り窓があるような部分が、張り出しバルコンになっていて、それが二階、三階と重なって、なんか教会というより歌劇場のよう。
バルコンに上がると天井あたりの意匠がよく見えて嬉しい。ここのオルガン奏者さんはめちゃめちぇ腰の低いひとだ、三十代後半かもっと若いか、中間管理職の匂いのするひとだ。履いてきたスニーカーを脱いでオルガン靴に履き替える。

オルガンはポルシェ・・・製?もとは19世紀のものらしいけど、いまや完全コンピュータ制御だ。コーラス練習開始。オルガンで基礎和音ならしてもらえば、なんの問題もない、と思うが、先生は満足しない。ソプラノに伸びがないという。声を投げろ投げろと野球投手のスローフォームを取らせる。せっかくオルガンあるのに20分くらいそれやっていた。別のトラブルとしては、29曲目、第一部終曲のコラール、オルガニストはこれはコラールじゃないと主張、どうあれ、これは弾けないという。たしかにこれ本来はフルート、オーボエダモーレと弦楽器の演奏が間あいだに入る。というかそれらと合唱のコラボで成り立つ曲で、そういう複数の音をオルガンだけで再現するのかなり難しい。ぶっつけで弾けるもんじゃないだろう。が、先生は絶対にやると言う。オルガニストもプライドもあるから本番までに準備すると言うのだが、先生としては今練習したいのだった。それでがたぴし鳴るオルガンとゆっくりゆっくり練習。誰が楽譜のページ繰るんだ、とかもめたり。しかしこういうリラックスした感じで手をぶらぶらさせながら歌うのも新鮮で楽しかった。個人的には54番のハーモニーがずれている気がする。アルト、テノールが低い、低すぎると思うが、声が飛翔しない、なぜ?12時まできっちり練習。オルガニストはぐったり疲れ果てていた。さすがです先生。完全支配下に置いた感じです。本番は夕方5時。