むっとーに、むっとーに

せたぶんが好きなのは、吹き抜けのエントランスホールの目の前の狭い敷地にぎちっと嵌りこむ池ふくめた庭園がかわいらしいのもあるし(昨日は紅白の梅がきれいでした)、なにより常設展が楽しいんだ。ここが収集しているムットーニ(日本のひと、武藤さん?なのかしら)のからくり箱が好きだ。もともとボクシングアートは好きだけど、これはなおかつ中にわたしの好きなもの、きらきらと、のろのろ、まどろむような速度の時間が仕舞われている。大きさはまちまちだけど、大きいものだと縁日なんかで見かける手押しの人形劇舞台や手回しオルゴールぐらい、小さいものは縦30×横50×奥30センチくらいの立方体。連想するのは、むかしの紙芝居。ひとつひとつに一篇ずつの文学作品が閉じられている。そのひとつひとつにちいさなからくりが仕掛けられているが、本番以外はきっちりと蓋が閉められ、あるいは電源が切られ、真夜中のメリーゴーランドか、眠りの森みたいに、完全に時間が止まっている。それが定刻になると、係りのひとがやってきて、その日その時間の演目の箱を開けてくれる。こどものころ持っていたオルゴールも思い出す。ねじをまいて鏡の舞台に、小さなバレリーナ置くとくるくる回る。乱歩の短編も思い出す。語り部が汽車のなかで箱を持って旅している男に出会う。その箱には・・・という話。連想とまらないです。
昨日見たのは村上春樹の「眠り」、ブラッドベリの「Alone rendez vous(万華鏡より)」、漱石の「漂流者(夢十夜より)」、ブームの宮沢君の曲を題材にした「詩の精(だったかな)」。前3作は前に見たのと同じだった。宮沢くんのははじめてみた、このひとの音楽は歌詞も歌唱もべったりとしていて、普段はすこし苦手なんだけど、べったり感がムットーニ美術には合っているみたい、からくりが動きはじめ、すごくウェットな時間が流れ始めるとうっとりしてしまった。ブラッドベリのもすごく好きだ。ただただひとりの宇宙飛行士が、きらきらとした宇宙の海をたゆたう数分間。それは小さな箱のなかであって、けっして本物の宇宙を模してるんじゃない、これはこの世界、唯一無二なんだ、ってとこがいい。