富士山四日目 後編

あとは山中湖への短い斜度のきつい下り。Bは下りがきらいらしいが、わたしはなぜか攻めたいタイプ。上りは長かったけど、下りはあっという間でしたね。湖見えてきて、ああ、帰ってきたと思う。数日前にも寄ったこじゃれたキャンプ施設のカフェでアイス休憩。ハンモックに横になったらここちよすぎて気絶しそうになった。
空気さなぎってこんなんか? 
ペンションまでは残り5キロくらいだろうか。安堵感から気も緩む。少し走って湖のそばにアトリエのような建物見つける。看板にはカフェとあるけど、ギャラリーだろうか。中入ると、目の前に湖。
   
足元から天井まで大きなガラスが張ってあり、たくさん光を取り込むようになっている。やはりアトリエらしい。イーゼルとか、こまごまとした小物が散在、壁にはサインの入った写真やポスター、奥に壁一面の本棚、中身は画集かな。あとでよくみたら野鳥や蝶の本がたくさんあった。それなりに都会的な空間で、窓辺に大人風のバーラウンジのような赤紫のビロード張りの椅子とローテーブルが並べてある。客は誰もいない。外界の音は完全シャットダウン。いいんでしょうか、こんなかっこうで、と頭では思うんだけど、目の前の景色に惹かれておしゃれな椅子に坐りこむ。うしろふりむくとホックニーの写真。店主さんは寡黙。メニューは飲み物とおつまみだけ。飲んじゃうかなあ。ビール。
なぜかグラスはベルギービール
きらきら光る湖ではジェットスキーのひとびとが錯綜し、水しぶきをあげている。それに「亡き王女のためのパヴァーヌ」が意外と合う。うーん、140キロ走ってきて、もうそのまま夢に入っちゃった感じだ。ひらひらと蝶がすぐガラスの向こうの野原から舞い上がって、湖のほうへ飛んでった。一瓶あけたかのような巨大量のピクルスをばりばり、ぼりぼり。そしてラヴェル。その後モーツァルトのなんだろう女性のアリア。よいなあ。よいなあ。
そのうちにほかのお客さんやってきた。この空間は、一組きりのほうがほんとに満喫できるんじゃないかな、わたしたちは十分満足したし、この空間を譲り渡しますか。
ペンション戻る。自転車分解、タイヤとチェーン周りをさっと掃除して、車に積みこむ。おつかれさまでした。「おかえりなさい」と大将に言ってもらってじんとしてしまう。風呂入り、脱力。
Bが本棚から浦沢直樹プルートゥ」見つけてくる。いつから読んでないんだっけか、最終巻までそろっているから、読みますか!
夕飯、スパークリングワインで乾杯。