空中のホテル


時計を見ると正午前。チェックインには早いけど荷物くらいは置けるだろう。このホテルも例の国際ホテル斡旋サイトで予約した。例によってガイドなんかの表示価格のほぼ半額だった。備考欄もあったんで「可能なら聖堂見える部屋を」とリクエストしておいた。ガイドには聖堂側は高いとあるから、きっと無理な注文だろう。「予約のお名前お願いします」こう聞き返されたのははじめて。そういえば、いままでのホテルでは日本人はおろかアジア人ひとり見かけなかった。ブルゴスはコンポステラ巡礼路の要の都市だし、ここは日本人にも人気のホテルなのだろう。なんたって聖堂の真正面だ。もと印刷所だったんだっけ、なにかしら由緒ある建物で、内装も渋い木目調(調というか、本物なんだけど)。嬉しいことに、もう部屋に入れると言う。渡されたキーのナンバーは404。日本でいうところの5階です。
お、聖堂側ですね、扉を開けて、
お、おお! 
おおお! 
窓枠をしっかりと掴んで、窓全開にする。息を呑む、しかない、のですな。
ここは地上五階だけど、土台自体が高いので、印象としてはもっと高層にいるよう。眼前におわすのは、ほんのすこし左肩を後ろに引くようにしてこちらに顔を向けた巨大な聖堂。ちょうどファサードの三層目が目の高さ、少し下方に薔薇窓が見える。ああ、ごてごてが!ごてごてがあ! さっそく双眼鏡を取り出す。ベッドに寝転がるとなおさらファサードしか見えない。それも巨大すぎて窓枠がそれを切り取るような按配だ。ぴっちぴっちにファサード。だめだ平衡感覚がなくなってきた。なんつーか、もう、粋を通り越している。
宙に浮く
鳩のホテルだ。