シロス三日目

yokkobukko2008-08-16

早朝4時半、目覚め。今回はずっとこの調子かもしれない。今日は土曜日だけど、平日だから朝課は6時から。回廊のオープンも平日の時間割。外はまだ夜。くもり。雨が降ったようだ。湿気ていてわりと温かい。教会のなかはなおさら湿気ていて温かい。
朝課に集まったのはわたしたちを除けば6人くらいだろうか。敬虔なひとたち。真っ暗なアプシスに聖職者のひとたちがぽつりぽつり集まってくる。蝋燭のあかりのもと朝の祈りがはじまる。冒頭は歌だが(アカペラ)、あとはみな詩篇の朗読。みなで声をあわせて詩篇を読む。シンプルなのがいい。言葉(聖書)が教会で、みな言葉に集まっているんだな。最後に歌があって(非常に美しい旋律、やはりアカペラ)、お務めはおしまい。
ホテル戻って風呂、出るとテレビに!!
なんか外在化したか、また。マルコ。スペイン語話している。冬、荒野の真ん中でジョゼッペ一座のロバ車が脱輪、水はないし、末の女の子は熱を出すし、どうにも往生するというエピソード。最後には雪まで降ってくる・・・という、なんかものすごくプレッシャーのかかる展開。こどものマンガだよね、これ。最後に一家を助ける爺さんがまたなんつーか渋い。終わりのうた楽しみにしてたけどカットだった。

7時半、こんどは賛課に出かける。くもり。ぽつりぽつり雨が降ってくる。さっきいたおばさんがまた来ている。きっと近所の信者さんだな。だいぶ慣れてきたので祭壇の左右にある聖職者席に着くひとびとの顔の区別もついてくる。あのひとは昨日回廊でガイドをしてくれたおじさんだな。なかには服装からして世俗のひともいる。あのひとは毎回あそこにいる。修道院で働くひとだろうか。ここの聖職者はみな黒い僧服を着ているのに、ひとり黒人のひとだけが白いのを着ている。昨日もそうだった。あれは昨日のミサでおおきなリュートに似た楽器を奏でたひとだ。
賛課は歌中心。ほんとに心地いい静かな展開で、いちばん好きかもしれない。Bはラテン語を口に出して、抑揚をまねるようにして歌っている。まわりの信者さんたちもそうで、読んだ言葉を発している。これにはすごく意味があるんだ。鐘が鳴って礼拝おわり。外へでると本降りのあと。道路が水浸しだ。
広場横切っていると「ペキン!ペキン!」と叫ぶ声がする。振り向くとホテルの隣の館の入り口でエプロンおばさんとおじさんがこちらを呼んでいる。そうかわたしたちを呼んでいたんだ。「ペキン?ペキン?」だったのかもしれない。「いやわたしたちは日本人だよ」と言うと、大喜び。遠くからきたんだね、聖歌は聴いたかい?まあまあ、なんだかすごいじゃないか、みたいなかんじで、隣のおやじさんをぱたぱた叩く。好奇心いっぱいなんだな。
朝飯後、ふたたび回廊へ。10時開門とともになかに入る。見学者の数は昨日ほどではないが、昨日修道士さんが一時間かけてじっくり案内してくれた同じ道とは思えぬ高速進行。今日のガイドは学生さん。てんぱってんのか。とにかく我々はなるべくグループから距離を取り、昨日はよく見れなかった西廊下と二階の柱頭をじっくり見る(二階は双眼鏡)。
 距離を取るの図
上は上で文様ものが多い。ヘレニズムっぽい図像も見える。ケンタウロス?サチュロスかな。くもりはくもりでまた味わい深い。撮影にはこっちのがいいかもしれない。ガイドの声や見学者のおしゃべりがなにかの拍子にとぎれたりすると、刹那ではあれ、いっきに静寂が場を占領してしまう。回廊のもとの姿にすぐに戻ってしまう。いままで訪れた僧院の回廊はみなそうだったし、ここもやっぱりそうなんだな。
薬部屋を出て、美術展示室を抜けると、スタート地点のレジのある部屋に戻ってくる。ちょうどまた別のグループが入場を待っているところで、そこにいる若い女性のガイドさんに、二階は見れないものか訊いてみようと近づいていくと、入場者と勘違いしたのか、わかったうえかは知らないがいっしょにおいでと誘ってくれるから、悪びれもせずニ周目に突入。
  ひよこ?スペイン独得のごてつき
  ふじつぼ?
三度目だからかこのガイドさんがはきはきしているのか、このひとの言うことは少しわかる。美学的、図像学的アプローチだからかもしれない。復活を疑うトマに脇の傷口を見せるため挙げられたイエスの右腕が画面を斜めにふたつに分けるのだという
「こちらが見ずして信じたひとびと、こちらがトマ」
だからなんだ、といえばなんだだけど、こういう説明って興味が持てる。
三周目なので余裕。のんびりと回廊の空気を味わう。ガイドさんがあっちこっちではりあげる声が焦点を失うというか、遠くなっていく。静かだなあ。ちょうど鐘楼が見える。あんなとこに時計があるんだな・・・・このくらいからか、二階にこだわる気持ちが消えた。
回廊を出て、することもなし。村の広場にはにんにく売りのおじさん。
拡声器必要なのかな?
修道院付属の「地球の楽器博物館」へ。回廊の入場券で入れる。どうやら個人のコレクションらしい。世界中の楽器、ちゃんとしたのもそうじゃないのもそろっている。このひとのツボは造形のほうにあるらしい。でんでんだいこがある。表示もdendendaiko。

昨日のミサでみた楽器を修道士さんが返しにきていた。セネガルの楽器なんだ。じゃ、あの白い僧服のお坊さんはセネガルの人なのかもしれない。この博物館、外観は古いが、なかは現代風に改装されている。天窓から光の入る明るい気持ちのいい建築だ。
シロスの村
   
 さっきの雨がウソのように晴れ。それもすがすがしい感じに空気が澄んでいる。村の広場にはどこからか観光客もあふれはじめた。にんにく売りのおじさん拡声器でなにか口上らしきものを叫んでいる。売れてるんだろうか?
パン屋さんあったんだ 
修道院の前に戻る(定位置)。おや、広場から小径が出ています。野草のしげる草原をくるりとめぐる散歩道のようだ。ぽくぽくとお散歩。まじで誰もいない。5分ほど歩くと絶景ポイントに。
 
焼肉のにおいがするからキャンプ場なんだろう。ああ、お腹すいてきたよ。昼のミサはパスして、食事にいきませんか? 
昼はホテルの食堂へ(朝おやじさんがスープを仕込んでいるのを見た、すごく旨そうだった)。この旅でレストランにちゃんと坐ったの、はじめてじゃない?ここは子羊のアサード(窯焼き)が名物なんだと。じゃ、Bがそれね。わたしはウサギのシチューにしよう。前菜はカスティージャ風スープとミックスサラダ。
  
スープは、さすがおやじがじっくり仕込んだだけある。だしはブタのソーセージのたぐい(チョリソーとかモルシージャ)と野菜、にんにくだろうか。卵が落としてある。旨い。なにかに似ていると思ったら、ラーメンじゃん。すごく馴染みのある味。ウサギのシチューは、昔からの憧れ。よくアニメで(カルピス劇場なんかで)見かける、あの火に直接かかった鍋から木のおたまですくってくれたようなやつ。ほんとはこのタジンみたいな陶器の皿を竈に直に入れるんだろうな。Bちゃん曰く子羊は北京ダックみたいなんだそうだ。ぱりっとしていて。なあんだ、この村でここがいちばんいいレストランだったんだなあ。
なんかそのままデザートまで食べてしまう 
時計を見ると4時。4時?も、もう?とBの時計を見ると3時すぎ。だよね。わたしの時計いつ狂ったんだろう
ヴェスペレまではたっぷり時間がある(ヴェスペレは7時から?)。まずはインフォメーションへ。かねてから心配していたとおり日曜祝日のバスは運休。明日はタクシーを頼むしかない。ホテルで予約をしてもらう。そうだ明日、日曜の午前は回廊見学も休みだから、回廊を周れるのも今日の午後が最後なんだなあ。部屋で少し休んでから、ふたたび回廊に戻り、最後の一周へ。
 宿の名と同じ図像、三つの王冠
やたら名残惜しい。もう一周するかい? いや、余韻を楽しもうよ、ということで意見一致。売店グレゴリオ聖歌のCDとロマネスク本購入(カード利きました)。入り口でもう時間だからと門前払いされているひとがいる。「わざわざ来たのに?」「明日にしてください」とか聴こえる。早くから入場制限をするんだな、とちょっと不思議に思う。
少し散歩をして、いつものように裏山のふもとの公園でのんびり。静かだ。いつもは遊具を獲り合うようにして、たくさんのこどもたちが遊んでいるのにな。空っぽの公園。それにしては停まっている車の数がはんぱじゃない。そして誰もいない。旅籠のバルにも、その庭にも・・・・教会の鐘が鳴っている・・・・ちょっと、変か? なんか・・・・
にわかに、異様な寂しさを覚え、ホテルに逃げ帰ろうと教会を横切る。ちょっと寄ってこうかとなかに入ると、ひとで溢れている。あれ、もう礼拝の時間? 予告時間よりずいぶん早いじゃん! とりあえず冒頭の歌いだしには間に合ったようだ。身廊の長椅子に空きはない。入り口あたりは立ち見のひとでいっぱいだし。どこからこんなに集まってきたんだろう。こどもたちもみなおとなしく坐っている。さて今回は、いっそ小冊子で言葉を追うのはやめて、音楽だけに集中してみよう。うーむ、なぜだろう、美しい旋律は変わらないのに、途端に退屈なものに近くなっていく。やっぱりこれは言葉なんだ、意味はわからなくても、言葉として接しないと意味がないんだ。ヴェスペレを締める曲も美しい。といって音感ないから、覚えられない。どんどん飛び去っていく。ああ、日本に帰ったら、グレゴリオ聖歌典礼内容に詳しい本を探してみよう。それにしても。「???」は晴れない。なんでこんなイレギュラーな時間にやってんだろ。なにか特別な日なのか? 

答えは単純でした。つまり、わたしの時計が合っていたのでした。つまり昼飯が終わったのが4時だったということなんだ。4時ですよ!! なんか知らぬうちにスペイン時間に染まっている。でもさすがに夜腹は減らず、日本から持参した酢昆布と昨日のワインで一杯やったところ、最悪な取り合わせで、気分悪くなる。ああ、シロス最後の夜なのにね。
   
終課。さっきの群集がウソのよう。やっぱり静かなのがいいです。今日いちにちの終わり、シロス最後の夜。今日も無事でよかったです。