ブルゴスを目指して

    10時に宿をチェックアウト 
宿の前のテーブルで昨日頼んでおいたタクシーを待つ。やってきたのはマツダのワゴン。あれ、タクシーじゃないよね。いわゆる白タク?いや、たぶんレセプションの若旦那の知人、だな。目的地のブルゴスまでは60キロだから、普通に飛ばしても一時間はかかりそうなのだが、我々にはもうひとつ寄りたいところがあるのだ。それはシロスから6キロほどのところにある聖セシリアという僧院で、ホテルで売っていた写真集にひとめ惚れしてしまったのだった。
                 
運転手のAホさんに写真集を示す「ここに寄ってからブルゴス行ってください」。メーターもなし、いったいいくらになるだろう。昨日インフォメーションのお姉ちゃんも皆目見当つかんと言っていた。いまふたりあわせても現金70ユーロくらいっきゃないんだけどな。事前交渉するべきなのは承知だが、いずれそれだけの現金しかないわけだからと、なんとなく出発。じゃあ、ごぶじでね、と若旦那の笑顔の見送り。さようならホテルのみなさん、さようならシロスの村。

   
                         
聖セシリア、エルミータの名のとおり荒野にぽつりと建つ僧院。回廊はないけど、間口3、4メートルほどの入り口のポーチが小さな廊下になっている。モサラベの典型、馬蹄っぽいアーチの窓が並ぶ。アーチを通して見る草原の風景。だあれもいません。昔ここで祈っていたひともこんな風景を見たのかな。
         
入り口の扉は、だめ、閉じられていて開きません。まあ、それも想定のうち。この廊下からこの風景が眺められればそれだけでいいんだ。ふたりでつかのまぼんやり。でも一日ここにいたらほんとに心細くなるだろうな。ほんとうに空っぽになってしまいそう。
僧院のうしろはゆるい崖になっていて、下にはかわいい川が流れている。そこにかかるローマの橋のうえでAホさんもぼんやりしている。ほっときゃ、いつまででも、ひとりでいられるひとなんだ、きっと。
でも、そろそろ出発しませんか?  
運転手のAホさんはシロス生まれのブルゴス暮らし。いまでもお父さんはシロスに住んでいるらしい。ロマネスク建築について多少の知識を持っていて、聖セシリア僧院でも最小限のガイドをしてくれた。その後、やはりロマネスク建築のカストリージョ・ソララーナにも寄ってくれ、アプシス外壁の柱のレリーフ*の歴史的重要性を説明してくれる。うーん、いいひとのハードル低いかもしれんが、このひと、いいひとじゃないか。なんかレルマという、パラドールのある歴史の町も案内したかったみたいだけど、もういいよ。あとはブルゴス行っちゃってください。
   
小一時間ほどでブルゴスが見えてくる。「小さい町だよ、ほんと、東京に比べたら」などと自分の町を卑下している。でもシロスのあとにはどんな町だって巨大です。英雄の名を戴く今夜のホテル横まで送ってもらっていよいよお勘定。70ユーロ。ビンゴ!Aホさん!! いったい、これが妥当な値かどうかはわからないが、足りたってことでもうほっとしているわたしたちなのだった。

*注/よく考えるとレリーフじゃないな。上からくっついてるから。アーチ飾りというところ。ロンバルディア帯の変形かもしれない。