シロスの回廊

シロスの回廊、これにどれほど憧れていたことだろうか。数年前にモワサックの回廊に魅せられて、それからずうっとロマネスクの回廊に夢中だが、ヨーロッパでそのモワサックと並び称される美しいロマネスク回廊といえば、それはシロスだ、と俗に言われる。

ようやく4時半がやってくる。修道院脇の回廊入り口にはすでに長い行列ができている。定刻に門が開き徐々に入場がはじまる。あ、やっぱり。自由にうろつくことのできない回廊なんだ。最近はこういうところがほとんどだ。モワサックは自由でよかったな。柱と柱のあいだに腰掛けたり、中庭でピクニックをしたりできたんだが。ともあれガイドが連れてまわれる人数(二十人くらい)が、五分おきくらいに入場する。
扉が開いて、いよいよ入場。写真集で何度も訪れたあの二階建てのユニークな回廊が現れる。ふたりで溜め息。
   ぶたも
わたしのスペイン語力で、ガイドの説明を理解するのは無理です。下手にわからない分、はなからマイペースで回廊に集中できるってもんです。たしかにBの言うように、柱頭彫刻はモワサックのほうがおもしろい図像が多かったか?こまかいバスケット文様や、反復鳥、反復クリーチャーものは、きりりっとした迷いのない彫りで、なんかえらく洗練されている。されすぎているようだ。あとで買ったブルゴスのロマネスク建築という本によると下の階、東と北の廊下が11世紀、西と南が12世紀のものらしい。上階は全部12世紀にできたとガイドが言ってたように思う。ここは柱頭より四つ角に二枚ずつ並ぶレリーフ、南東、北東、北西の六枚が目玉ということか。わたしは北西のエマオの巡礼と、トマの不信がなんだか好きだけど、イエスの昇天のおふとんみたいな状態の聖霊もたまらなく好きだし、聖霊降臨の、天からにょきっとでた神の手もいい。にょきっとでた神の右手というのは、中世の図像にはよくあるが、なんかほんとに見入ってしまう。すごい表現だよ、過不足がない。
 足もいい 
ふわあっと上を仰ぐと天井もすごい。ずらずら平行に並ぶ木の梁におばけちゃんがいっぱいいる。中世の写本にみかけるようなスペイン顔。赤みの強い絵だ。これはこれでおもしろい。うーん、イ、インプットが多すぎる、ここは。
「そこのおふたりさん、薬部屋に入りましょう」まさかこれで終わりか、どうやら二階を見せるつもりはないらしい。まあまあ1回目はこんな感じで内部の構造が分かればいいんです。解散後、同じグループのおじさんが「ガイドの言うこと、ぜんぜんわからないのかい?」と心配してくれる。「うん、わからない」「そりゃ、残念だなあ」実のとこ、このくらいのコミュニケーションが限界ですよ。