ひとりさすらう

yokkobukko2008-05-07

実はウィーンにはずっと前に一度来たことがある。たしか1990年、もう18年も前なんだな。当時はちょうどベルリンの壁が半崩壊したころで、世界じゅうが猛烈なスピードで動いていた。学生旅行で、友達とベルリンにいっしょに入って壊れかけた壁を見て、そこで分かれて、彼女は東ブロックを、わたしは西を二週間でまわった。ウィーンは最終地だった。2週間とはいえ、はじめての海外、それもひとり旅で、ずっと緊張していたし、疲労やら怪我やらいろいろで、悲壮な感じあったかもしれない。ローマからウィーンの夜行列車であった人がやさしい旅人というか世話好きというかおせっかいな人で、わたしにウィーン在住の同世代の友達を(なかば強引に)ひきあわせてくれた。で、その後はその子達の住居やら、いきつけのカフェやらレストランやらホイリゲやらに連れまわされたが、これが楽しかった。当時世界じゅうでヒットしていたスティングのアルバムのことやら、映画「ザ・ウォール」のことやらを話しながら(みな、かたこと英語)、あたりまえだけど、国がちがっても同時代に生きているんだな、と実感した。よくあるはなしで彼らとは一回くらい手紙をやりとりしただけで、その後の消息はしらない。

さて現在にもどって、今日のスケジュールはグループで朝9時からバスに乗って、市街、郊外観光ということなのだが、わたしは表向き体調不良ということで、それはパスさせてもらって、のんびり中心街をぶらぶらすることにした。主な目的は、以前彼らにつれていかれたカフェを探すことと、国立図書館に行くこと。
朝はホテル前のスタットパークで昼寝(朝寝)。いいお天気。池の鴨は芝生で日向ぼっこしてる。鴨って陸棲なんだ。知らない人、知らない犬と挨拶。とりあえず「グリュスゴット」。サッカー禁止って書いてあるのに、おもいっきりサッカーユニフォームの集団がいると思ったら、なにかの撮影だった。ハリパネもってる人、カメラマン、メガホンもった監督かな。遠くから見てるとアホっぽい。

中心街に向かって歩きはじめる。かわいいお店に寄って、姪っこAちゃんにガラガラと自分にキラキラしたブレスレットを買う。スーパーで水とマジー(マギー)のやきそば3袋。ようやくシュテファン寺院に到着。シュテファンって、ステパノのことなんだな。石打で殺された最初の殉教者。聖堂のいちばん大きな絵は石打の光景だろう。手前に石を手にしてこちらを向いているきれいな若者がいる。澄んだ瞳をしているから、これはサウロ(パウロ)なのかもしれない。双眼鏡もあるし、ゆっくり腰をおろして、教会のなかを見る。
12時<カルドス>というレストランでコーラスのメンバーと合流。ランチを食べる。みんなつかれているな、申し訳ない気分。でも昼もひとりでぶらぶらします。昼はシュテファン寺院横の歩廊ギャルリーにあった教会美術館(正式名称はしらない)で、宗教美術を見る。静かでこじんまりしてよいところ。斜め前の教会もののお店もかわいいもので充実している。義母に木彫りの十字架を買う。
さてお目当てのカフェだけど、記憶にあるのは、シュテファン寺院から近かったということ、うす暗い、窓のないカフェだったということ。あと全体に赤いカーテンが引かれていて、壁には演劇とか絵画のたくさんのポスターが貼られていたこと。有名なカフェだと言って連れて行かれたからガイドブックにも載ってるようなところだろう。ガイドブックの写真から、おそらく「ハヴェルカ」だろうと、狙いをつけて行ってみる。
ビンゴ。
窓はありました。あれは3月だったからカーテンが引かれていたのかもしれない。トイレのあたりや、机と椅子の感じ。ぜったいここだ・・・と思う。戸外にテーブルも出てるけど、坐るならぜったい店内だと、柱にくっついた一人がけの椅子に坐る。感慨深い。給仕のおじさんなんぞは、いい感じにくたびれている。この人だったら18年前にもいたかもしれない。メニューはないけど、昔飲んだ、ミルク入りコーヒー(ブラウナー)を頼んで(昔はコーヒーと頼んだらこれが出てきてびっくりした。京都でも同じことでびっくりしたことがあるけど)しばし休憩。
 
次は国立図書館へ。ハヴェルカのある通りは骨董通り。ドロテウムもこの通りにある。なんか小さなもの(漠然と)欲しいなあ、と思いつつ、入り口の扉が重そうなので、ショーウィンドーに張り付くだけでがまん。国立図書館は、ほんとの図書館ではなくて、ほんとの図書館だったものを眺めるところ。蔵書やコレクションもそのままの形で残されているのだが、いかんせん手に取ってみることができないから、やはりもどかしい。ところが特別展示がおもしろかった。「聖書からミステリーまでの殺人」(うろおぼえ)というテーマで、さまざまな時代の書物や印刷物が展示されてるんだけど、なかには中世の写本、細密画もいくつかあり、これをとにかく穴が開くほど眺めまわした。見開き2ページが開いて展示してあるだけだけど、もう十分。なにがそれほど好きなのか、自分でもわからない。羊皮紙パルシュマンの質感とか、その上の点ほどの空間にこんもり載った絵の具の感じとか、インクのにじみとか。たとえ機会があっても、実際に手にとってみるのは怖いかもしれない。でもそういう機会あれば、じっくり何日もかけて見たいな。

とだらだらだらだら時間が過ぎていき、気づくともう夕方、今日もオペラに行くからホテルに帰らないといけない。少々急ぎ足でホテルへと戻る。いやあ、満足しました。お腹いっぱいです。