ダムに沈む温泉へ

yokkobukko2012-03-20

義弟妹にもらったクーポン券(宿代3000円引き)で川原湯温泉へ。前から行ってみたかった温泉。かの有名な八ツ場ダム予定地。いろいろあったが、なんかいよいよ沈む日が近づいてきているという話を聞き、行ってみた。
秘湯というと、だいたいJR下りてから、バスで一時間とか二時間とかいうとこが多いけど、ここは駅から歩いていける。駅降りると、天にむかってそびえるコンクリートの塔が三つ、どどーんと視界に入ってくる。ダムに架かる一号橋の橋げたになるらしい。まだこれ建設中。というか、どこもかしこも土埃あげて同時進行で工事が進んでいるみたい。歓迎の門くぐって、坂のぼり、温泉街にはいっても、あちこち工事。崖は削られ中、家は壊され中、空き地は整地中。かろうじて営業中の宿が三件くらいかなー、それに共同湯。重機がついこないだまで営業していたらしき民宿か宿の建物を、躊躇なく野蛮にこわしている。中に家具とかソファとか残ったままみたい、隣接する建物は宿らしい。犬小屋に犬ちゃんがいるからここはまだ人がいるんだろう。すごい音がして、かつ振動があって、かつもうもうと埃が上がってるけど、そして自らもなんかもっさり埃にまみれているけど、犬ちゃんは平然としている。
宿着く。渓谷に張り出した部屋で、景色いい。すくなくともこの窓からの眺望にはダム工事の影は見えない。たまたまかな。むこうに大きな橋。あそこまで歩けるらしい。橋の上から滝が見えると番頭さん。まだ3時だし、温泉入るまえに歩くか!宿のひとにおしえてもらった道を行く。どこいってもヘルメットかぶった工事のおじさんがいる。なんか上から下からつぎつぎ更地にされているらしく、意味なく道がつづれおれているように見えるが、本来そこには林とか、人家とか、畑とかなにかしらの生活があり、道はそれを迂回していたんだろう。整地中の工事現場の中に豊田乳業なるヨーグルト屋さんがぽつんと立っている。なんでこんな不便な、そして中途半端なとこに工場たてたの?と思うけど、きっと周囲にあったものものが消去されて、いまそんな状態に見えるんだろう。
まさか!なんですけど・・・道に迷う。なーんもない更地のあいだを歩いているのに、そこに見えている橋にたどりつけない。むっかーしのテレビゲームのパックマンみたい。画面右下の端っこに行くと、画面左上に出てしまう・・・上の道、下の道を行ったり来たり、なんか、これはあれか、今日は招かれてないんだろーってことで、諦めて道引き返す。
これまでいろんなさびしいところへ行った。鄙びててとか、過疎でとか、人の心がすさんでてとか、いろいろな寂しさがあるが、ここの寂しさはそれとはまた一味ふた味ちがう。荒涼。
昔の記憶をむしりとられて、それでもう漂泊というか、たぶんちょっと前にはまだ残ってたかもしれない拘泥、悔しさとか恨みとかも無意味化している。空っ風が吹きぬけている。白けている。すっかり白けきっているんだな、ここは。
義弟妹がここへ来始めたころは、甥っ子Hがちいさかったころは、ここはどんな街だったんだろうか。こんな街をダムに沈める、日本ってこんな国なんだなーー、と感傷的なおしゃべり。(感傷をダムに沈めるんならまだいい、ここまで白けさせたところに、なんかものすごい罪を感じる)
共同湯と宿の温泉、どちらも入った。内湯の雰囲気がいい。湯もいい。しかしあつい(那須の鹿の湯がこんくらいあつかったか)。硫黄のにおいする。塩味、濃い、有機的なスープの味。あかぎれに沁みてひりひりするパンチきいた草津に比べたら、ずっとやわらか。一週間くらいここにいたら肌がほんとにきれいになりそう。
西日が水面にゆらゆらしている崖湯に入った。逆光の山のはと橋。
宿の客はわれわれひと組のみ。貸し切りだった!女将さんがかわいい。番頭さんはそれに輪をかけてかわいい。「ごそまつさま」うちで流行りそうだ。