ヴェズレー入り

予約したホテルは村の入口、丘の麓にある。自転車で近づいてくと名前言う前から笑顔で、わかってるよ、と来る。自転車はそのへん置いといたらあとで避難しといてやる、まず部屋に入れと言ってくれる。とりあえずカフェ横に自転車停め、鍵閉めていると、「こんなとこに泥棒はいない」とカフェにいたおじさんが言う。フランスの鍵は見た目も目方もずっしり重い鉄の塊なので、たしかに見るからに警戒してますよ、という感じなのだ。まあ、人さまに借りたものなので責任上しかたないのです。
  部屋のテラスから
部屋は二階にすぎないけど、もともと高台にあるおかげで見晴らしがいい。広大な谷に面してテラスがあってテーブルと椅子が置いてある。ここで飲んだ白ビールは最高にうまかった。
シャワー浴びて、すこし落ち着いて、丘の頂上の聖マドレーヌ教会まで歩く。まずインフォメーションへ。今晩の聖堂コンサートのポスターが貼ってある。「ポスター見たんですが・・・」「どのポスター?」インフォメーションの姐さん、ちょっと怖い。「ただですか?」「○×○×」「え?」「だから二十ユーロだっつってんでしょ」って、ちょっと怖い。「チケットはどこで?」と聞いたが、集中力落ちてて、よく聞き取れないし、お姉さん怖くて、わかったふりして出てしまう。結局、坂の上の別の施設で道を訊き直し、ふたたび迷う。なんか今日はだめ。Bとケンカ。まあ、なんとかチケットは買え、疲れて陰険な仲間割れをしながら坂を上る。途中でさっき追い抜いた巡礼さんたちを見かける。無事、着いたんだね。徐々にぴりぴり心解け、聖堂前の広場に。ようやく来たんだなーと思う。しかも聖堂横の土産物屋のショーウィンドーに双眼鏡発見!よかった。
ナルテックス入り、タンパン前へ。聖霊降臨。手からびろびろと波が出ている。シロスの聖霊降臨の表現に少し似ている。全体に彫りが深い。浅レリーフなどでなく、立体彫刻に近い。横から見ても形が抜けている。双眼鏡活躍。
聖堂内へ。
どどんと胴の太いバジリカ構造。天井高く、よって柱頭の位置も高いが、図像、意外とよく見える。悪魔が多いし、ざわざわと心がさわいでくる図像だ。愉快でもある。Bはわたしより聖書に詳しくないが、柱頭が大好きだ。理屈はいらないのか、よく図像を見ていると思う。これがモーゼとパウロの奇跡の粉ひきだよ、とか、そういううんちくは要らないのだろう。ときどき、ちょっと負けたような気になる(いや、勝ち負けじゃないのは当たり前なんですがね)。ゆっくり一時間くらい見て、教会の側面の階段のぼったとこにあるヴィオレ・ル・デュックの部屋へ。
有料。
氏がこの聖堂を修繕した際のスケッチや、どけられた柱頭のオリジナルなどが飾ってある。おもしろい。なにより静かで、隠れ家っぽい。それにしても、どうして誰も見に来ないんだろう・・・
ヴィオレ・ル・デュックというひとは修繕家としてはどうも評判が芳しくない。オリジナルのロマネスク建築にかなり確信犯的に独善的に修正をほどこしたかららしい(のちに訪ねたオタンのロラン美術館でもけちょんくらいにけなされていた)。建築家は芸術家なんだろう。
   聖堂横のテラス